退去時にトラブルが多い「原状回復」ですが、そもそもこの原状回復とはなんでしょう。
たとえば、入居時にクロスが新品だった場合、退去時もクロスは新品に戻さなくてはいけないのでしょうか? 大家さんから賃貸住宅を借りて入居しているのだから、退去する時は入居時と同じ状態にして返さないといけないと、考えている方もいるかもしれません。
しかし、原状回復の本当の意味というのは「入居時の状態に戻すこと」ではありません。
本記事では、『原状回復って新品に戻すこと?原状回復の考え方を詳しく解説!』致します。
原状回復の正しい考え方を知っていれば、退去時の無用なトラブルを回避できる可能性が格段に上がります。一緒に確認していきましょう。
目次
原状回復で重要な3つのこと
原状回復を考える上で重要なことは、下記のとおり3つあります。
- 原状回復の定義を知る
- 原状回復負担の分類を知る
- 経過年数を考慮する考えを知る
それでは各具体的にみていきましょう。
原状回復の定義を知る
まず1つ目は、「原状回復の定義を知る」ということです。
原状回復の定義を知るうえで重要なものに、国土交通省が策定した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下ガイドライン)があります。
まずガイドラインでは、建物価値の減少を下記のように定義しています。
- ①‐A 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年劣化)
- ①‐B 賃借人の通常の使用により生ずる損耗(通常損耗)
- ② 賃借人の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
このうちガイドラインでは②を念頭に入れて、原状回復の定義を下記のように判断しています。
原状回復とは賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意、過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗、毀損を復旧すること
なるほど!!原状回復ってこういうことだったんですね!!・・・分かった方はすばらしい。でも、僕は初めてこれをみたら「いったいなんのこっちゃ」って思ってしまいました。
まぁとりあえずここは、「原状回復の定義ってこういうことなんだ、ふーん」という程度で大丈夫です。次で詳しくご説明します。
原状回復負担の分類を知る
原状回復の考え方を詳しく知る上で重要なこと2つ目は、「原状回復負担の分類を知る」ということです。原状回復負担の分類とは「貸主負担になるのはこういったもの」。反対に「借主負担となるのはこういったもの」というような分類の考え方です。
原状回復負担の分類で重要になってくるのは、上記“原状回復の定義”の内容です。
ではひとつずつ詳しくみていきましょう。
①‐A 建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年劣化)
物には価値がありますが、この価値は年月がたっても同じではありません。いくら物をきれいに使っていたとしても、物の価値というのは年々さがっていくものです。
こういった考えを「経年劣化」といいます。
経年劣化に対する原状回復は“貸主負担”が原則です。
①‐B 賃借人の通常の使用により生ずる損耗(通常損耗)
借主が住んでいるうえで、気を付けていてもどうしようもない汚れやキズがでてきます。この考えを「通常損耗」といいます。
通常損耗の具体例としては、ガイドラインに具体例がのっています。
- 畳の裏返し、表替え(特に破損していない場合)
- 畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
- 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
- テレビ、冷蔵庫等の後面壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡
- 壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
- 全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃、具体的には、ごみの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ周りの油汚れの除去等を実施している場合)
等が通常損耗に分類されます。
通常損耗に対する原状回復は“貸主負担”が原則です
② 賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
借主の不注意でついてしまったキズや汚れ、普通の使い方ではつかないようなキズや汚れのことを、「故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等」といいます。
故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等の具体例も、ガイドラインにのっています。
- カーペットに飲み物をこぼしたことによるシミ・カビ
- 冷蔵庫下のサビ跡
- 引越作業で生じたひっかきキズ
- 畳やフローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
- 落書き等の故意による毀損
- タバコ等のヤニ・臭い
- 台所の油汚れ(使用後の手入れが悪くススや油が付着している場合)
- 結露を放置したことにより拡大したカビ・シミ
- エアコンから水漏れし賃借人が放置したため壁が腐食
- ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
- 風呂・トイレ・洗面台の水垢、カビ等
- 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備(エアコン、給湯器等)の毀損
- 戸建て賃貸住宅の庭に生い茂った雑草
故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等に対する原状回復は“借主負担”が原則です。
経過年数を考慮する考え方を知る
原状回復の考え方を詳しく知る上で重要なこと3つ目は、「経過年数を考慮する考え方を知る」ということです。これは、実際の敷金精算の場面でもトラブルになることが多い問題なので、ぜひ覚えてもらいたい重要なポイントです。
「原状回復を考える上で重要なこと2つ目」でもご説明しましたが、借主に故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等があった場合、借主に原状回復義務が生じます。
しかし、借主が原状回復するとしても「費用を100%負担しなければいけないか?」というと、答えは違ってきます。
ガイドラインでは、上記経過年数を下記グラフで説明しています。

たとえば、
新築のマンションに入居したAさんがいます。新築なので、もちろんクロスは新品です。月日は流れ3年後にAさんは退去する事になりましたが、Aさんは喫煙者でクロスが汚れてしまっています。
タバコのヤニ汚れは借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗にあたるため、Aさんに原状回復義務が発生します。
しかし、年数が経過することによってクロスの価値は下がるため、Aさんが負担しなければならない原状回復の範囲は、クロスの現在の価値分ということになります。
ガイドラインでは、クロスの耐用年数(クロスの価値)は6年と定められているため、上記Aさんの例でいう新品から3年後のクロスの価値は50%ということになります。
つまり、Aさんは「クロスの張替え費用の50%を負担すれば、原状回復義務を果たしたとみなされる」ということです。
まとめ
「原状回復」と一言に言っても、なかなか奥が深くて難しいかもしれません。しかし、この「原状回復で重要な3つのこと」を覚えていれば、万が一不当な請求をうけても反論できるはずです。
不当な請求に泣き寝入りしないためにも、本記事のことはぜひ覚えておくことをおススメします。