本記事を見ていただいている方は、「賃貸物件からの退去を考えていて、敷金がいくら戻ってくるのかと心配になっている方」または「今現在、貸主・不動産会社から高額な現状回復費用を請求されて驚いている方」そのどちらかが思い当たるのではないでしょうか。

一般の方にとって、敷金精算はあまり多く経験することではないため、「心配になってしまう」「驚いてしまう」気持ちはよく分かります。

昨今では、貸主・不動産会社の中にも「敷金=返還するべきもの」という認識が広がってきているように感じますが、国民生活センターには、年間 13,000件前後の敷金返還・原状回復トラブルに関する相談が寄せられ、多くの方が泣き寝入りしているのが実情です。

そもそも、国土交通省作成「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」には、はっきりと「通常使用の範囲内での劣化や汚れについての修理費・掃除費については基本的に貸主(大家)が負担する」と明記されています。つまり普通に居住していれば、敷金は全額返還されるということです。

POINT

※国土交通省作成『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』ってなに?:詳しくはこちら👉国土交通省のガイドラインとは?

ではなぜ、年間 13,000件前後もの敷金返還・原状回復トラブルに関する相談が寄せられ、多くの方が泣き寝入りしているのでしょうか?

もちろん、敷金返還・原状回復トラブルが発生する一番の原因は、貸主・不動産会社の敷金・原状回復に関する認識不足なのは間違いありません。しかし、私が日々、敷金返還・原状回復トラブルに関する相談に接している中で感じるのは、「借主側にも原状回復に対する認識不足もあるではないか?」ということです。

本記事は、敷金返還に役立つ実践的な方法をご紹介する記事になります。本記事を読んでいただければ、敷金返還・原状回復に関するノウハウは、100パーセントに近いほど網羅できる内容を目指して執筆しました。

本記事が、敷金返還・原状回復トラブルで困っている方の一助になることを、心より願っております。

なお、本記事中に分からない用語や意味がございましたら、弊所記事『敷金返還に関する基礎知識』もあわせてお読みいただくと、理解が深まるのでおススメです!!

目次

虎の巻① 原状回復のポイントは入居時に有 

原状回復というと、重要になってくるのは“退去時”だと思っている方も多いかもしれません。しかし、退去時より「入居時」に気を付けるべきポイントが、実は沢山あります。

なぜなら原状回復とは、入居時と退去時の程度差の問題だからです。国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも、敷金問題は「出口」ではなく「入口」の問題としています。

それでは、入居時に気を付けるべきポイントとはいったいどういったものなのでしょうか?具体的に見ていきましょう。

入居時チェックリストを作成しよう

原状回復とは、入居時と退去時の程度差の問題です。ということは、退去時に、この程度差をしっかりと主張することが出来れば、借主の方にとって有利になります。

そこで役立つのが「入居時チェックリスト」です。

入居時チェックリストとは、入居時の部屋の状況を細かく記載する一覧表のようなものです。

新築物件の場合は、キズや汚れは原則ありませんが、中古物件の際には、何かしらのキズや汚れが発生していることが考えられます。入居時にそのようなキズや汚れを確認したら、入居時チェックリストに記載しておきましょう。

このチェックリストに記入することによって、自分がつけていないキズや汚れ等に対して支払い義務がないことを証明することが可能です。

下記は、国土交通省のガイドラインにあるチェックリストの例になります。ぜひ使用してみてください。

 

POINT

※チェックリストはこちらからダウンロード出来ます👉国土交通省ガイドライン チェックリスト(例)※PDFが開きます

●こちらの記事もおススメです入居時チェックリストは記入しなきゃいけないの?【入居時チェックは誰の義務?】

●こちらの記事もおススメです入居時にチェックすべき個所と項目のポイント!!

写真を撮っておこう

入居時チェックリストを記入するのも重要ですが、チェックリストと同じくらい重要になってくるのが「写真で記録を残す」ということです。

チェックリストに記入したキズや汚れがある箇所を、併せて写真を撮ることによって、より借主の立場は強くなります。是非、チェックリストの記入と共に行っておきましょう。

ちなみに、「フィルム写真でないと裁判時に証拠として採用されない」と言われることがありますが、敷金返還請求等に関しては、デジカメやスマホ等の画像であっても、ほぼ問題無く証拠として採用されると考えていただいて結構です。

フィルム写真やデジカメ、スマホ等をあまり気にせず、キズや汚れの気になる箇所は写真をどんどん撮りましょう。

●こちらの記事もおススメです写真がないと敷金返還で不利になる?

虎の巻② 入居中の不具合は即報告!!

虎の巻②は、入居中の不具合についてです。

同じ賃貸物件への平均居住年数は、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会さんの調査によると約4年だそうです。一昔前と比べると、平均居住年数は短くなってきているようですが、それでも4年間、日数にすると1400日強という長い日数を同じ部屋に住むことになります。

これだけ長く住んでいれば、部屋に不具合が発生することも珍しいことではなく、むしろ何かしらの不具合が発生する可能性は高いといえるでしょう。

入居中の不具合として多いのは「エアコンが効かなくなった」「お湯が出なくなった(給湯器の故障)」「天上から水が漏れてきた」等々ありますが、不具合が発生する原因として「借主の行為を原因とする不具合」「経年劣化・通常損耗を原因とする不具合」があります。

借主の行為を原因とする不具合の場合は、貸主・不動産会社に報告するのは当然ですが、経年劣化・通常損耗を原因とする不具合の場合も、貸主、不動産会社にはキチンと報告するようにしましょう。

多くの賃貸借契約書には、「居室内の設備等に不具合が発生した場合、貸主、不動産会社に報告すべき義務」が記載されており、報告を怠ると“借主の善管注意義務違反”を問われる可能性があるからです。

POINT

※借主の善管注意義務違反ってなに?:詳しくはこちら👉故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損とは?

自分の過失で不具合が発生したわけでもないのに、報告を怠った結果、退去時に原状回復費用を取られることほど無駄なものはありません。

「入居中の不具合は即報告」ぜひ覚えておいてください。

虎の巻③ 退去が決まったら絶対にしておくべきポイント4選

貸主・不動産会社に退去通知をだしてから、実際に退去するまで1ヶ月から2ヶ月程度期間が空くのが一般的です。

この期間は引越の準備に追われてしまい、なかなか敷金返還や原状回復のことを考える時間が少ないかもしれませんが、この期間に“退去が決まったら絶対にしておくべきポイント”が分かっていると、円満な退去に直結しやすいのも事実です。

円満な退去を目指し、押さえておくべきポイントを確認していきましょう。

ポイント① まずは契約内容を確認しよう!特に“特約事項”に注意が必要

敷金返還・原状回復トラブルが起きる要因は、5割強が「契約内容がらみ」です。

その原因として、賃貸借契約というのは比較的長期間に及ぶ契約であり、契約当初の契約内容を覚えていないことや、そもそも契約内容を把握できてないケースが見受けられるためです。

契約内容を把握できていなければ、円満な敷金返還は望めないといっても過言ではないでしょう。

そこで、退去が決まったら、必ず契約書には目をとおすようにしてください。契約書は、もちろん全項目に目をとおしていただきたいのですが、特に注意をしなければならないのが“特約事項”の部分です。

特約事項の部分には、敷金精算や原状回復費用に関する記載が多くあるからです。(特約事項以外の箇所に、敷金精算や原状回復費用に関する記載がある場合もあるので、十分注意してください)

この部分の契約内容を把握することによって、退去後に請求されるであろう“予測額”を知ることができます。

貸主や不動産会社は、この特約を根拠に敷金返還を拒む例が非常に多くあります。まずは相手が持ち出してくるであろう、“特約という武器”を把握しましょう。

特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約等)とは

原状回復の原則としては、

  • 経年劣化・通常損耗=貸主負担
  • 借主の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損=借主負担

となっています。

POINT

※経年劣化・通常損耗ってなに?:詳しくはこちら👉経年劣化・通常損耗とは?

※故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損ってなに?:詳しくはこちら👉故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損とは?

しかし、賃貸借契約の実務上、上記原則とは異なった契約になっている場合が多くあり、これを、“賃貸借契約上の特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約等)”といいます。

尚、退去時に、敷金から一定額を差し引く契約(敷金10万円から5万円を差し引く等)のことを“敷引き・敷金の償却(保証金償却)特約”といいます。

敷引き・敷金の償却(保証金償却)特約については、弊所別記事『退去時に敷金がなくなる!?敷引き・敷金償却は有効なのか』で詳しく解説しています。

特約の具体例

特約の内容で多いのは下記内容です。

  • ルームクリーニング代を負担する
  • 畳の表替えの費用を負担する
  • 襖の張替え費用を負担する

本来「ルームクリーニング費用」「畳の表替え費用」「襖の張替え費用」は、経年劣化・通常損耗の補修費に分類されるため(借主の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損に達する場合を除く)、貸主負担が原則です。

しかし、この特約というのは、「本来貸主負担である項目を、借主負担とする」という内容になっているのが一般的です。

特約がすべて有効とは限らない

「本来貸主負担であるはずの部分も借主負担になる」言い換えれば借主にとって不利な契約である“特約”。このような特約があった場合、やはり借主が原状回復費用を負担しなければならないのでしょうか?

賃貸借契約も民法上の契約である以上、お互いが納得した上で締結されていれば、本来の原則とは異なった内容でも有効というのは法律の建前です(契約自由の原則)。

この特約に関して、最高裁判所(最高裁判所第二小法廷平成17年12月16日判決)は以下要件を満たした場合、特約は有効であるとの判決をくだしました。

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

つまり、最高裁判所は「特約は一定の条件を満たしたうえで有効であり、無条件に認められるものではない」という判断を示したということです。

そこで、「どういった特約が有効なのか?それとも無効なのか?」を判断するのが非常に重要になってきます。

特約の有効性・無効性に関しては、弊所別記事『知っていると敷金返還に有利!!特約(原状回復・クリーニング特約)について!!』で詳しく解説しています。非常に重要なテーマなので、ぜひご確認ください!!

●こちらの記事もおススメです更新時に追加された特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約)は有効?

ポイント② チェックリストを使ってキズや汚れを確認しよう

次のポイントは、“チェックリストを使ってキズや汚れを確認する”ということです。チェックリストとは、虎の巻①でご紹介した「入居時チェックリスト」のことです。

チェックリストを使って、入居時にチェックした内容と退去時の状況を比較・確認しましょう。

チェックリストを使って確認する項目は、

  1. 入居時についていなかったキズや汚れはないか?
  2. キズや汚れがついている場合は、経年劣化・通常損耗に分類されるのか?故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用によるものに分類されるのか?
  3. 故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用によるキズや汚れの場合、借主に原状回復義務が発生するが、適正な負担範囲、負担割合(経過年数・耐用年数)はどの程度なのか?

上記3点を確認しておきましょう。

ちなみに、「入居時にチェックリストを記載していない」方は、分かる範囲で事前にキズや汚れをチェックしておきましょう。

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ポイント③ 退去前の清掃は必ず行おう

三つめのポイントは、“退去前の清掃は必ず行おう”ということです。

本来、お部屋のクリーニング費用というは、“貸主負担が原則”となっています。しかし、国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、退去前になにも清掃をしていない場合、その費用負担が借主負担となる可能性を示唆しており、事実、退去前になにも清掃をしていなかった場合におけるクリーニング費用を借主負担とする裁判例も存在します。

よく、借主の方から「クリーニング費用は貸主負担だから敷金返還は可能ですか?」とご相談をいただきますが、前提として“退去前に清掃をきちんとしていること”が条件になる点に注意しましょう。

どの程度の清掃をすればよいの?

ここで一つ疑問にあがるのが、「退去前に清掃をきちんとしている」というのは具体的にどの程度の清掃をすればよいのか?ということです。

国土交通省のガイドラインでは「“通常の清掃”を実施していない場合で、部位もしくは住戸全体の清掃費等分を全額賃借人負担とする」と記載がありますが、少し抽象的です。

そこで、裁判所の過去の判例等を総合し、もう少し具体的に考えてみると、通常の清掃=大掃除程度(具体的には、ゴミの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ回りの油汚れの除去等)と考えられます。

大掃除程度と考えると「年末の1日を使った大掛かりな清掃」と言えますが、円満な敷金返還のためには必須の行為です。引っ越し前で大変ですが、お掃除をがんばりましょう!!

●こちらの記事もおススメです退去時に借主が清掃をすべきかどうか【退去時清掃の目安について】

ポイント④ 退去立会い日(鍵の引き渡し日)は余裕をもって臨もう

ポイント③でご説明しましたが、退去前の通常清掃(大掃除程度)を行うか否かは、円満な敷金返還のためにとても重要です。

しかし、実際にはなかなか退去前清掃を行えないという事情があります。引っ越しと、貸主・不動産会社による退去立会いを同日にしてしまうことが理由の一つです。

退去前の清掃というと、新しい引っ越し先に荷物を運び出した後におこなうのが一般的ですが、引っ越しと退去立会いを同日にしてしまうと、どうしても時間的な制約から、清掃が不十分になりがちです。

そこで最後のポイントは、“退去立会い日(鍵の引き渡し日)は余裕をもって臨もう”ということです。

もちろん、急な転勤や遠方への引っ越しの方は致し方ありませんが、可能な限り引っ越しと退去立会い日は数日の猶予をおくべきです。

退去立会いまで数日の期間があれば、退去前清掃も十分におこなうことが可能です。引っ越し日や退去立会い日を調整できる方は、退去前清掃を十分おこなった上で退去立会いに臨むのをおススメ致します。

虎の巻④ いよいよ退去立会い!!立会い時に気を付けるべきポイント4選

ここまで「円満な敷金返還には、退去前にすべきことが重要」ということをご説明してきましたが、もちろん退去立会い時にも気をつけるべきポイントがあります。

では、“退去立会い時に気をつけるべきポイント”を具体的に見ていきましょう。

ポイント① 感情的な対立はNO!!“熱い心と冷たい頭”の精神で臨もう

「貸主や不動産会社からだまされて、高額な原状回復費用を請求されるんじゃないか?」と思っている方はいないでしょうか?

確かに、国民生活センターには、年間 13,000件前後の敷金返還・原状回復トラブル寄せられており、中にはそういった“悪徳貸主・悪徳不動産屋”がいることは否定しませんが、必要以上に相手を警戒してしまうと、相手の言っていることに対して否定しがちになってしまいます。

「否定しがちになる」ということは、結果、相手も人間ですから、感情の対立が生じやすくなってしまいがちです。しかし、退去立会いを“感情的な対立の場”にすることは避けるようにしましょう。

感情的な対立になっても、敷金精算の期間が延びてしまったり、裁判になる可能性が増えてしまったり、メリットは一つもありません。

もちろん中には、あまりにも理不尽な原状回復費用を要求をされ、“キレて”しまいそうになることもあるかもしれません。しかし、そんな時は「貸主(不動産屋)さんのご意見は分かりました。後日こちらの考えを整理してご連絡します」位言っておけばよいのです。

退去立会いは「絶対に敷金を取り戻してやる」と「請求金額は適正なのか不当なのかを冷静に判断」という“熱い心と冷たい頭”の精神が重要です。

ポイント② その場でサインはNO!!敷金・解約精算書の内容をよく確認しよう

ポイント二つ目は、“敷金・解約精算書の内容をよく確認する”ということ。

退去立会いの実務上、貸主・不動産会社から、敷金・解約精算書への同意のサインを求められることがあります。しかし、慣れない敷金精算の場では、敷金・解約精算書の内容を十分に確認したつもりでも、見落としや勘違い等が起こる可能性が否定できません。

したがって、敷金・解約精算書は一度持ち帰り、精算内容を冷静に検討した後にサインするのが得策です。

まれに、「サインをするまでの賃料を請求する」と主張する悪徳貸主・悪徳不動産会社がいますが、そんな時は、「サインをするまで賃料が請求される法的根拠はなんですか?民法ですか?借地借家法ですか?」と聞いてみましょう。きっと返答に困って何も言えなくなるはずです。

ただし、精算内容を検討するといっても、一ヶ月や二ヶ月も先延ばしにするのはNG。

長くても一週間以内には、検討した結果を先方に伝えるようにしましょう。それぐらいの日数であれば、基本的に返事を待ってくるはずですよ。

すでに敷金・解約精算書へサインしてしまった方へ

ちなみに、この記事を読んでいただいている方の中には、「すでに敷金・解約精算書にサインをしてしまった」という方もいるかもしれません。

敷金・解約精算書にサインをしてしまっていても、その精算内容が不当である場合、敷金返還請求権の時効(返還請求が出来る期限)は、退去から5年間認められており、法的には敷金の返還や減額請求は可能です。

しかし、実務上は、退去から時間が経てば経つほど、敷金返還を実現させるのは難しくなってきます。

敷金精算内容に疑問がある方は、早急に精算内容を検討し先方に異議を申し立てるようにしましょう。

●こちらの記事もおススメです精算書にサインしたら原状回復費用を必ず負担しないといけない?

ポイント③ 敷金・解約精算書は必ず請求しよう

前項ポイント②では、立会い時において敷金・解約精算書へのサインを求められた場合の対処法を、ご紹介しました。しかし、すべての退去立会い時に、その場で敷金・解約精算書へのサインを求められる訳ではありません。

むしろ「新居へ敷金(解約)精算書が送付されてくる」ケースが多いかもしれません。新居へ敷金・解約精算書が送付されてくる場合、「○月○日までに、本精算書の内容を確認し、ご記名、ご捺印の上ご返送ください」となっていることが多いので、その期間までによく精算内容を検討すればよいでしょう。

ただし、一部の悪徳貸主・悪徳不動産会社が「借主のサインも無いまま、勝手に敷金から原状回復費用を差引いて返金してくる」というケースが見受けられます。このようなケースを回避するために、“敷金・解約精算書は必ず請求”するようにしましょう。

貸主・不動産会社へ「敷金・解約精算書はどれくらいで新居に届きますか?原状回復工事前に必ず精算内容を確認させてください」と伝えるのが効果的です。

●こちらの記事もおススメです敷金精算書は借主から請求できるのか?

虎の巻⑤ 敷金・解約精算書(原状回復に関する請求書)はここをチェック!!確認すべきポイント4選

『敷金・解約精算書(原状回復に関する請求書)はよく確認しよう』というのは、虎の巻④ですでにご紹介しましたが、具体的にどこをチェックすればよいのでしょうか?

虎の巻⑤では、“敷金・解約精算書(原状回復に関する請求書)のチェックすべきポイント”をご紹介します。

ポイント① 借主負担の根拠を確認しよう!!

ポイント①は“借主負担の根拠を確認しよう!!”です。

敷金・解約精算書(原状回復に関する請求書)において、借主負担となっている項目(例えばクリーニング代、畳の表替え、クロスの貼り替え等)には、必ず何からしらの“請求される根拠”があります。

借主が原状回復工事を負担しなければならない根拠は下記二つです。しっかりと覚えておきましょう。

借主が原状回復工事を負担しなければならない二つの根拠

  • 特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約等)が有効に成立している場合
  • 借主の故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損が発生している場合

借主が原状回復工事を負担しなければならないケースは、上記二つの根拠に基づきます。したがって、敷金・解約精算書(原状回復に関する請求書)の内容を確認し、「これは特約に基づく項目」「これは故意・過失等に基づく項目」という風に、一個ずつ仕分けしていきましょう。

故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損の具体例

故意・過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損の具体例は下記のようなケースが該当します。

  • カーペットに飲み物をこぼしたことによるシミ・カビ
  • 冷蔵庫下のサビ跡
  • 引越作業で生じたひっかきキズ
  • 畳やフローリングの色落ち(賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによるもの)
  • 台所の油汚れ(使用後の手入れが悪くススや油が付着している場合)
  • 結露を放置したことにより拡大したカビ・シミ
  • エアコンから水漏れし賃借人が放置したため壁が腐食
  • ガスコンロ置き場、換気扇等の油汚れ、すす
  • 風呂・トイレ・洗面台の水垢、カビ等
  • 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備(エアコン、給湯器等)の毀損
  • 戸建て賃貸住宅の庭に生い茂った雑草

上記損耗・毀損に関しては、借主に原状回復義務が発生します。退去時の円満な敷金返還のためにも、普段からお部屋の使用状況には気をつけるようにしたいですね!!

ポイント② 経年劣化・通常損耗の補修費が借主負担となっていないかを確認

ポイント①では、「特約に基づく項目」、「故意・過失等に基づく項目」と、敷金(解約)精算書の内容を一個ずつ仕分けをしました。

すべての項目が、上記二つの根拠に基づく場合は、“負担項目”に関しては適正な敷金精算と言えますが、中には二つの根拠にまぎれて、経年劣化・通常損耗の補修費が借主負担となっているケースが見られます。

裁判所は、「経年劣化・通常損耗の補修費は、原則として貸主が負担すべきもの」と判断していることから、経年劣化・通常損耗に当てはまる項目をみつけた場合、敷金・解約精算書(原状回復に関する請求書)から除外しておきましょう。

経年劣化・通常損耗とは

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、自然的な劣化や借主の通常使用により生じる損耗に関しては、貸主に原状回復義務があり(借主に原状回復義務はない)、この劣化や損耗のことを経年劣化・通常損耗といいます。

では、どういった劣化や損耗が経年劣化・通常損耗に該当するのでしょうか?

経年劣化・通常損耗の具体例

経年劣化・通常損耗の具体例は下記のようなケースが該当します。

  • 畳の裏返し、表替え(特に破損していない場合)
  • 畳の変色、フローリングの色落ち(日照、建物構造欠陥による雨漏りなどで発生したもの)
  • 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
  • テレビ、冷蔵庫等の後面壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
  • 壁に貼ったポスターや絵画の跡
  • 壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
  • 全体のハウスクリーニング(賃借人が通常の清掃、具体的には、ごみの撤去、掃き掃除、拭き掃除、水回り、換気扇、レンジ周りの油汚れの除去等を実施している場合)

上記のような劣化や損耗に関しては、借主に原状回復義務はありません。

ポイント③ 経過年数(耐用年数)が適正に考慮されているかを確認しよう

ポイント③は“経過年数(耐用年数)が適正に考慮されているかを確認しよう”です。

敷金返還・原状回復のご相談をいただく中で、この”経過年数(耐用年数)の考慮”がされていないケースが非常に多く見受けられます。特に注意をして確認していきましょう。

経過年数(耐用年数)の考慮というのは「物の価値は年数によって減少していく。だから、長く住めば住むほど借主の原状回復負担は下がるのが原則」ということです。

経過年数(耐用年数)とは

「物の価値は年数の経過によって減少していく」この考えを“経過年数(耐用年数)の考慮”といい、もちろんこの考えは、賃貸住宅における原状回復にも適用されます。

貸主や、不動産会社の中には、「長く入居したんだから、借主が多く原状回復費用を支払うのは当たり前だ!!」と主張している方をよく見ます。

しかし、この”経過年数(耐用年数)の考慮”に則って考えれば、長く住めば住むほど、本来は借主の原状回復負担は下がるのが原則です。

たとえば、クロスの経過年数(耐用年数)は「6年」です。入居当時クロスが新品だった部屋に4年間入居した方が、あやまってクロスを破いてしまった場合、クロスの残りの価値は35%しか残っていません。したがって、クロスの張替え費用が、㎡当たり1,000円だと仮定した場合、借主が負担しなければならないのは㎡当たり350円ということになるのです。

経過年数(耐用年数)の具体的な計算方法については、弊所別記事『経過年数(耐用年数)の計算方法を詳しく解説!!』で、詳しく解説しています。ぜひ、ご確認ください。

各部材の具体的な経過年数(耐用年数)

「物の価値は年数によって減少していく」。つまり、長い間居住すればするほど、借主の原状回復負担割合は下がっていくのが原則です。

しかし、この経過年数(耐用年数)というのは、「経過年数6年」「経過年数15年」「経過年数を考慮しない」等々、すべての部材において一律の年数ではなく、部材によって経過年数(耐用年数)が変わってくるので注意が必要です。

各部材の具体的な経過年数(耐用年数)は、弊所別記事『経過年数(耐用年数)の具体的な年数が知りたい!!』で詳しく解説しています。ぜひ、ご確認ください。

●こちらの記事もおススメですタバコのヤニ汚れに経過年数(耐用年数)は考慮されないのか?

ポイント④ 借主が負担すべき原状回復の範囲が適正かを確認

確認すべき最後のポイントは、“借主が負担すべき原状回復の範囲が適正かを確認”です。

借主が負担すべき原状回復の範囲が適正かということは、例えば、部屋の一部(一面)に汚れをつけてしまった場合、「その部屋の全面のクロスを交換しなければならないのか?」それとも「汚してしまった一部(一面)の負担ですむのか?」ということです

このポイント④も、ポイント③同様、過剰に請求されているケースが多い項目になるので、注意しながら確認していきましょう。

原則一枚単位。既存部分が複数枚の場合はその枚数分(裏返しか表替えかは、毀損の程度による)

カーペット・クッションフロア

毀損等が複数個所の場合は、居室全体

フローリング

原則㎡単位。毀損等が複数個所の場合は、居室全体

クロス

㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損した箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない。

クロス(タバコ等のヤニ、臭い)

喫煙等により、当該居室全体においてクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合のみ、居室全体のクリーニングまたは張替費用を賃借人負担とすることが妥当と考えられる。

一枚単位

一本単位

設備機器

補修部分、交換相当費用

補修部分。紛失の場合位は、シリンダー交換も含む。

クリーニング

部位ごと、または住戸全体

虎の巻⑥ 泣き寝入りしない!!不当な請求には“内容証明郵便”を送付しよう!!

前項虎の巻⑤では、敷金・解約精算書のチェックすべきポイントをご紹介しました。

ご自身で、この敷金(解約)精算書内をチェックした結果、内容が適正であれば何も問題ありません。しかし、中には不当な請求内容が含まれているかもしれません。

不当な請求を見つけた時は、『泣き寝入りせず、きちんと自分の主張を相手に伝える事』が非常に重要ですが、自分の主張をしっかりと相手に伝えるのは意外と難しいものです。そんな時に有効となってくるのが、“内容証明郵便”です。

“内容証明郵便”ってなんだ?

内容証明郵便とは、郵便局が「だれが」「いつ」「どんな内容」の郵便を送ったのかを証明してくれる特殊な郵便です。

郵便は、正確かつ確実な通信手段ですが、それでも稀に、なんらかの事故で配達されていないことや、受取人が受け取ったにも関わらず、受け取っていないと言われてしまうとそれを証明出来なくなってしまいます。

その点、内容証明郵便を配達証明付で郵送した場合、郵便物を発信した事実から、その内容、さらには相手方に配達したことまで証明してくれます。

内容証明郵便を出すことよって得られるメリット

上記の通り内容証明郵便の本来の効果は、どんな内容の手紙をいつ出したのか証明できることにあります。 しかし、それ以外にも内容証明郵便を出すことによって得られるメリットがあります。

  1. 相手方への心理的圧迫
    内容証明郵便では、『この郵便物は平成 00年 00月 00日第 000号書留内容証明郵便物を差し出したことを証明いたします日本郵便株式会社』という一文が記載されます。 これは、通常の手紙ではなく、あえて内容証明という特殊な郵便を送付したということから、相手方への心理的圧迫の効果があります。
  2. 差出人の真剣さが伝わる
    1. とも重なりますが、通常の手紙ではなく、あえて内容証明という特殊な郵便を送付したということから、相手方に対し、差出人の真剣な態度を示すことができます。 
  3. 証拠づくり
    万が一後々訴訟になった場合に備えて、『だれが』『いつ』『どんな内容』の郵便を送ったかという証拠づくりの為に、内容証明郵便を送付します。
  4. 時効を一時的に止める効果
    敷金の返還を請求する権利を『敷金返還請求権』といいます。 この権利は退去してから5年で時効になり権利が消滅しますが、内容証明郵便を送ることによって一時的に時効を止めることができます。

内容証明郵便の作成・送付ルール

内容証明郵便は普通の手紙と違い、作成・送付するのに一定の条件があります。

  1. 横 20字・縦 26行(横 26字・縦 20行でも可)
  2. 同文のものを 3通作成する
  3. 使用できる文字、数字、記号が決まっている
  4. 枚数が 2枚以上になった場合に、契印、割印が必要
  5. 書き間違えたときの訂正方法が決まっている
  6. 手紙の冒頭か、末尾に差出人、受取人の住所氏名を必ず書く
  7. 封筒の表に受取人の住所氏名、裏に差出人の住所氏名を書く
  8. 資料や写真は同封できない
  9. どこの郵便局で出せる訳ではなく、内容証明取扱店に限られる

貸主?不動産会社?内容証明郵便の送付先はどちらにすべき?

内容証明郵便で敷金返還を請求したい場合、貸主と不動産会社。どちらにに請求すべきでしょうか?

契約相手は「貸主」。しかし、敷金精算の窓口は「不動産会社」となっているケースが非常に多くあり、このような場合、どちらに内容証明郵便を送付すればよいのか迷ってしまいます。

弊所別記事『貸主?不動産会社?敷金返還請求の相手先はどっち?』では、そのような疑問を詳しく解説しています。ぜひ、ご確認ください。

虎の巻⑦ 自分で内容証明郵便を作成してみよう!!【内容証明郵便テンプレ】

虎の巻⑥では、「内容証明郵便のメリット」「作成・送付ルール」「送付先等」をご紹介してきました。しかし、これらを知っていても、「これで敷金返還・原状回復トラブル解決に有効な内容証明郵便が作れます」とは、残念ながらなりません。

それは、敷金返還・原状回復トラブル解決に有効的な内容証明郵便を作成するためには、最低限入れ込まなければならない基本事項があるからです。

そこで、ご自身で内容証明郵便を作成したい方にむけて、内容証明郵便のテンプレートを公開致します。ぜひ、参考にしてください。

内容証明郵便テンプレート1ページ目

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内容証明郵便テンプレート1ページ目は、通知日、貸主名・住所(管理会社名・住所)、通知人名・住所、賃貸借内容等を記入していきます。では一つづつチェックすべきポイントみていきましょう。

チェックポイント① 通知日

チェックポイント①は通知日です。

通知日は実際に郵便局に内容証明郵便を提出する日を記入しましょう。印刷時は空欄のまま、実際に郵便局に提出される日に手書きで記入しする方法でもよいと思います。

チェックポイント② 貸主名・住所(管理会社名・住所)

チェックポイント②は貸主名・住所(管理会社名・住所)です。

チェックポイント③ 通知人名・住所

チェックポイント③は通知人名・住所です。

通知人名は原則賃貸借契約上の借主の方になり、住所は現住所になりますので注意してください。

また、通知人名の例外としては連帯保証人の方が考えられますが、その際は連帯保証人様名・現住所を記載してください。

チェックポイント④ 私、○○○○は~

私、○○○○は~の所は、チェックポイント③に記載した通知人名を記載してください。

チェックポイント⑤ 物件住所

チェックポイント⑤は物件住所になります。

この物件住所は、今回退去された物件の住所を記載します。またマンションやアパートにお住まいだった方は、マンション・アパート名及び号室まで記載します。

チェックポイント⑥ 賃貸条件

チェックポイント⑥は賃貸条件になります。

一般的な契約の場合には、賃料、管理費(共益費)、預託済み敷金を記入することが多いと思います。例外として、敷引き契約の場合は礼金、更新料等も記入ましょう。

チェックポイント⑦ 退去日

チェックポイント⑦は退去日になります。

退去日は、実際に部屋を引き渡した日を記入しましょう。

内容証明郵便テンプレート2ページ目

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内容証明郵便テンプレート2ページ目は特段変更する箇所はありませんが、部屋使用状況等によって個別に変更してください。

内容証明郵便テンプレート3ページ目

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内容証明郵便テンプレート3ページ目は、返還期限、返金先情報の記入をしていきます。

チェックポイント⑧ 返還期限

チェックポイント⑧は返還期限を記載します。

このテンプレートでは、「本書面到達後14日以内」になっていますが、契約内容によっては敷金返還期限が約定されている可能性があります。契約内容を確認してみましょう。

チェックポイント⑨ 返金先情報

チェックポイント⑨は返金先情報になります。

原則通知人名の指定口座を記入する形になります。

虎の巻⑧ それでも解決出来ない場合・・・最後の砦“少額訴訟”を活用しよう!!

内容証明郵便を送付することによって、敷金返還・原状回復トラブルが100%解決出来るかというと、残念ながらそうではありません。

弊所が内容証明郵便作成をお手伝いさせていただいたお客様に限定しても、86.7%のお客様は敷金の返金もしくは請求金額の減額を実現していますが、逆にいうと、13.3%のお客様は内容証明郵便の送付だけでは解決できていないということです。(平成29年2月21日現在)

しかし、内容証明郵便の送付で解決できなかったからといって、ここで諦めてしまうのは非常にもったいない!!そんなときは、最後の砦として“少額訴訟”の提起を検討しましょう。

少額訴訟とは

少額訴訟とは、比較的小規模な紛争について、争われている金額に見合った時間、労力、費用で効果的な解決を図ることが出来るように、手続きを出来るだけ簡易にして迅速な解決を可能とした、簡易裁判所の訴訟手続きのことをいいます。

少額訴訟の対象となるのは、60万円以下の金銭の支払いを請求する事件に限られますが、一部の高級居住用物件や店舗・事務所の賃貸借契約のような場合を除き、敷金を 60万円以上預けている場合は少ないと思いますので、敷金返還・原状回復トラブルに関する訴訟は、ほぼ少額訴訟で対応できるでしょう。

下記は少額訴訟に関するメリット・デメリットをまとめたものです。

少額訴訟のメリット

  1. 原則的に 1回の口頭弁論期日で審理が完了し、その後ただちに判決が言い渡されることになりますので、迅速な解決が望めます。
  2. 判決に対して控訴することは出来ず、また、判決には必ず仮執行宣言が付けられますので、早期に終局的な解決が望めます。
  3. 弁護士、司法書士等専門家でない方が利用することが出来るよう訴訟手続きが工夫されているので、代理人をつけずに、自ら本人訴訟を行うことも可能です。

少額訴訟のデメリット

  1. 原則的には 1回の口頭弁論期日で審理が完了しますが、相手方から通常訴訟へ移行させる旨の、申述があると、1回の審理で完了しません。
  2. 簡易な手続きで本人訴訟が可能と言っても、何も知識がない場合、裁判所へ訴状の提出等で、何度か通わないといけない可能性があります。

敷金返還請求を考えた時に、本来は話し合い(裁判外)での解決が望ましい形です。しかし、話し合いが決裂してしまった場合、少額訴訟の提起まで考えなければなりません。

敷金返還請求をおこなう前に、少額訴訟のメリット、デメリットをよく確認しておきましょう。

自分で裁判(少額・通常訴訟)できるのか不安に思っている方へ

敷金返還請求をおこなう場合、まずは内容証明郵便での返還請求。それでも返還されない場合に訴訟(裁判)の提起を検討していくことになります。

しかし、一般の方が“訴訟”と聞くと、「自分だけではできなそう」「弁護士等に依頼したら報酬が高そう」等々、尻込みしてしまう方もいるのではないでしょうか?

確かに一昔前は、裁判所はなかなか一般の方には近寄りがたい雰囲気がありましたし、そういったイメージをもっていらっしゃる方がいるのも仕方ないかもしれません。ただ、最近の裁判所は、かなり丁寧に訴状の書き方や手続きのやり方を教えてくれるようになっているので、実は訴訟というのは思っているより簡単に出来るようになりました。

裁判に関する統計数値などをまとめた司法統計(平成26年度)によると、

簡易裁判所における弁護士等選任状況【通常訴訟】

  • 双方本人:226,221件
  • 双方弁護士または司法書士:16,767件
  • 原告側弁護士または司法書士:59,030件
  • 被告側弁護士または司法書士:17,199件

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となっています。

また、少額訴訟に関しては、

簡易裁判所における弁護士等選任状況【少額訴訟】

  • 双方本人:8,129件
  • 双方弁護士または司法書士:33件
  • 原告側弁護士または司法書士:759件
  • 被告側弁護士または司法書士:300件

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となっています。

簡易裁判所内での民事事件の場合、通常訴訟で7割、少額訴訟にいたっては実に9割近い方が、実は弁護士や司法書士の先生に依頼をせず、自分で訴訟をしているのですね。

そもそも少額訴訟は、「比較的小規模な紛争について、争われている金額に見合った時間、労力、費用で効果的な解決を図る」というコンセプトのもと誕生した訴訟制度なので、弁護士等の専門家に依頼せずとも、自分だけで十分対応可能となっています。

虎の巻⑨ 少額訴訟の流れや費用・手続きをマスターしよう!!

ここまで「少額訴訟の趣旨・制度」「メリット・デメリット」等をご紹介してきました。

虎の巻⑨では、『少額訴訟の流れや費用・手続き』を解説致します。

少額訴訟の流れは大まかに四つだけ

少額訴訟を提起する場合の流れは、

  1. 訴状の提出
  2. 簡易裁判所が訴状受理
  3. 口頭弁論期日(裁判日)
  4. 判決

大まかに上記のようになります。

では詳しく見ていきましょう。

訴状の提出

少額訴訟の提起は原則として、

  • 被告の住所地
  • 不動産の住所地(敷金返還の場合)

管轄する簡易裁判所“訴状”を提出する必要があります。

訴状というと難しく思われる方もいらっしゃるかと思いますが、窓口で詳しく説明してくれますし、裁判所のHPにも訴状のひな形がアップされているので問題なく作成することが可能です。

簡易裁判所が訴状受理

訴状を提出した時点で裁判所が

  1. その裁判所の管轄かどうか
  2. 訴状の必要的記載事項がすべて書かれているかどうか
  3. 少額訴訟を提起できる種類であるかどうか
  4. 必要額の収入印紙が貼付されているかどうか

等を審査して問題なければ訴状は受理されます。

受理された場合、その場で「口頭弁論期日が指定された呼出状」「少額訴訟事件受付票」(事件番号が記載された紙)が交付されますが(呼出状は後日郵送で交付になる場合もありますが、大体の日程はその場で教えてくれます)今後裁判所に問い合わせする際や手続きの際に必要になりますので、なくさずに保管しておきましょう。

口頭弁論期日

口頭弁論期日というのは、裁判をおこなう日です。当日は遅くとも15分前に、裁判所の指定された法廷前に到着するようにしましょう。口頭弁論に遅刻や無断で欠席すると、裁判官に相手方の言い分が認められて敗訴してしまう可能性があるからです。

当日、裁判所に行くことができないほどの重病、予想できない大きな災害、避けられない交通機関のストライキ等の場合、口頭弁論の期日を延長することは可能ですが、個人的な仕事等の理由では期日を延長することはできませんので注意が必要です。

また、あらかじめやむをえない事情で出廷できないことが分かっている場合には「期日変更の申立書」を提出しなければなりません。こちらも注意してください。

無事、口頭弁論に出廷することができた場合は裁判が始まりますが、少額訴訟の場合、テレビで見るような「真ん中に裁判官、左右向かい合って原告と被告が座りあうような法廷」ではなく、ラウンドテーブルという丸いテーブルに裁判官や書記官、司法委員、原告、被告等が一緒に座り裁判を進めていくのが一般的です。

判決

基本的には口頭弁論終了後、裁判官から判決が言い渡されますが、後日送付という形で判決書が送付される場合もあります。

また、少額訴訟の場合100%の勝ち負けという判決ではなく、原告被告の妥協できる範囲での「和解」を裁判官から勧告される場合も多いようです。

和解案に納得できない場合は断ることも可能ですが、妥協できる範囲内であれば和解を受け入れてたほうがよいでしょう。

ちなみに判決・和解共に裁判で確定した事項(例えば○月○日まで敷金○○○○円を原告に返還する等)が破られた場合、強制執行という方法で確定した債権内容を実現することが可能です。

少額訴訟の費用に関して

少額訴訟の費用に関して、「“少額”といっても高額な費用がかかるんじゃないか」と思われている方も多いと思いますが、基本的には10,000円程度で起こすことが可能です。

まず少額訴訟にかかる費用として、

  1. 裁判費用
  2. 当事者費用
  3. 裁判所までの交通費等

が必要な費用になります。

尚、裁判で勝訴した場合、「上記費用は被告(貸主・不動産会社)に負担してもらうことができる」ということも、覚えておきましょう。

それでは、以下詳しく解説致します。

裁判費用

裁判費用は、その名のとおり裁判所に提起するために必要な費用をいい、これには「手数料」「それ以外の裁判費用」があります。

手数料

手数料とは、原告が裁判所に訴えを提起する時に必要な費用で、訴訟の目的の価格にしたがって法律で定められていますので、詳しくは裁判所のHPで確認してください。
(例)敷金8万円の返還訴訟の場合:手数料1,000円  敷金25万円の返還訴訟の場合:手数料3,000円

この手数料は、収入印紙を訴状に添付して納付することになります。

それ以外の裁判費用

手数料以外の裁判費用としては、主に送達費用があります。送達費用とは、裁判所が原告や被告に対して書類の送付にかかる郵便代金と考えてください。

この費用は郵便切手で支払う必要があり、敷金返還訴訟の場合は被告(貸主・不動産会社)が1人であることが多いのでおおむね5,000円前後になります。

この送達費用は管轄の裁判所によって金額が若干変動します。管轄裁判所に訴状提出前に確認しておくのがおススメです。

当事者費用

当事者費用とは、訴訟の当事者(原告や被告)の行為に必要な費用になります。

敷金返還訴訟の場面で必要になる場面としては、貸主が法人名義(会社名義)の場合、法務局に備え付けられている商業登記事項証明書を取得する必要があり、その際の費用が600円になります。

少額訴訟に必要な書類とは

敷金返還に関する少額訴訟を起こす際に必要となる書類は数点あります。

少額訴訟は基本的に一回の口頭弁論で判決まで言い渡される訴訟手続きになるため、裁判の際に提出する書類が多いほどよいでしょう。ただし、やみくもに書類を提出できるわけではなく、少額訴訟で提出できる書類は口頭弁論当日にすぐに取り調べが出来るものに限られます。

その上で敷金返還に関する少額訴訟に必要となる書類として、

  1. 賃貸借契約書(なければ重要事項説明書、更新時の契約書)
  2. 敷金精算書(原状回復明細書・見積書等)
  3. 内容証明郵便と配達証明記録(事前に送付している場合)
  4. 入退去時の写真(なくても大丈夫)

上記のような書類があると安心です。

賃貸借契約書(なければ重要事項説明書・更新時の契約書)

賃貸借契約書は、原告が争いになっている物件に住んでいたということを証明する書面になるため、重要な書面です。

また、敷金返還請求の場面において「特約の有効性」を争うケースも多いため、そういった点を判断することに関しても重要になってきます。

長く入居していると「契約時に締結した契約書が紛失してしまった」という方もいらっしゃいますが、そのような方は「重要事項説明書」もしくは「直近に更新した際の更新契約書」でもよいでしょう。
(できるだけ不動産会社から契約書のコピーをもらっておくことをおススメします)

敷金精算書(原状回復明細書・見積書)

退去後に、貸主もしくは不動産会社から送付してくる敷金精算書(原状回復明細書・見積書)を提出しましょう。

内容証明郵便と配達証明記録(事前に送付している場合)

事前に内容証明郵便を送付している場合、内容証明郵便と配達証明記録も裁判所に提出しましょう。

内容証明郵便を提出する理由としては、訴状にも今までの経緯やどういった法律の理論で敷金の返還を請求するのかを記載しますが、一般的には内容証明郵便の方が、訴状よりも詳しくそういった経緯や法律の理論を記載するため、口頭弁論時に、裁判官に説明がしやすいというメリットがあります。

また配達証明記録は、内容証明郵便を送付し相手方がそれを確実に受け取ったという証拠となる資料です。「そんな通知は受け取っていない!!」と被告が主張しても反論できるように、忘れずに内容証明郵便とセットで提出しましょう。

入退出時の写真(なくても大丈夫)

入退出時の写真があれば提出しましょう。写真を撮っていれば、入居時に最初からあった傷や汚れと、退去時の比較ができるので正確な判断が期待できますが、借主がつけた傷や汚れを立証するのは、原則貸主の義務になります。

「写真を撮っていなくても大丈夫ですか?」という質問をまれにいただきますが、敷金返還請求の場合はそこまで気にしなくても大丈夫です。

 

虎の巻⑩ 分からないことは、専門家に相談するのが正解

ここまで、敷金返還・原状回復に関してかなり詳しく解説してきたつもりですが、それでも分からないことが出てくるかもしれません。そんな時は、専門家に相談してみましょう。

敷金返還・原状回復に関して相談できる専門家は何種類かありますが、ご自身の状況や、その後の対応も含めて相談する専門家を決めるのがおススメです。

以下、敷金返還・原状回復に関する相談を受け付ける各専門家のメリット・デメリットをご紹介します。ご参考ください。

国民生活センターに敷金返還・原状回復トラブルを相談するメリット・デメリット

国の機関である「国民生活センター」

敷金・原状回復トラブルに関して、相談実績が豊富にあり無料で相談に応じてくれる所がメリットになります。

しかし、相談後の手続きに関してはすべて自分で対応しなければならず、その点はデメリットといえるかもしれません。

国民生活センターへ相談するメリット

  • 相談実績が豊富にある
  • 無料で相談にのってもらえる

国民生活センターへ相談するデメリット

  • 相談後の手続きは自分で対応する必要がある

行政書士に敷金返還・原状回復トラブルを相談するメリット・デメリット

国家資格者である「行政書士」

行政書士は、敷金返還業務において有効な、内容証明郵便を作成代行することができます。

内容証明郵便作成に関しては「弁護士・認定司法書士」に依頼するより、安価に設定されているケースが多いでしょう。また、事務所によって多少異なりますが、相談までは無料で行っている事務所が多くあるのもメリットになります。

デメリットとして、行政書士は相手方と交渉する権限を持っていません。内容証明郵便送付後に相手方が反論や条件等を出してきた場合は基本的にご自身で対応する必要があります。また、すべての行政書士が敷金返還業務に精通しているわけではないため、敷金返還業務に強い行政書士を探す必要があるでしょう。

行政書士に相談・依頼する場合は、二人三脚で解決を目指していくイメージになりますね。

行政書士へ相談するメリット

  • 内容証明郵便作成を代行してもらえる
  • 弁護士・認定司法書士に比べると安価
  • 相談無料の事務所が多い

行政書士へ相談するデメリット

  • 内容証明郵便送付後、自分で対応する必要がある
  • 敷金返還業務に強い行政書士を探す必要がある

弁護士・認定司法書士に敷金返還・原状回復トラブルを相談するメリット・デメリット

法律系資格の最高峰「弁護士・認定司法書士」

弁護士・認定司法書士に相談するメリットは、「すべて任せることができる点」に尽きるでしょう。仮に裁判になったとしても、弁護士・認定司法書士は借主の方の代理人として相手方と戦ってくれます。依頼をすれば後は結果を待つだけです。

デメリットとしては、依頼する費用が高額になりやすいこと。また、相談するだけでも費用が発生するケースも多くあります。

場合によっては、依頼することによって無事解決できたとしても、経済的メリットが生じない可能性もでてくるでしょう。

弁護士・司法書士へ相談するメリット

  • すべて任せておける安心感
  • 裁判になっても安心

弁護士・司法書士へ相談するデメリット

  • 費用が高額になりやすい
  • 相談するだけでも費用が発生するケースが多い

まとめ

いかがでしたでしょうか?

ここまで、「敷金返還・原状回復トラブル解決に使える実践的な方法」をご紹介してきましたが、本記事は、敷金返還・原状回復トラブルで悩まれている方の、少しでもお役に立てていますでしょうか?

本記事は、私の不動産会社での経験から行政書士として敷金返還に関する業務での経験を含めてた、かなりのボリュームのある記事となっています。最初から最後まで読んでいただくのはかなりの時間と根気が必要かもしれませんが、それだけ実になる記事であると自負しています。

本記事が、敷金返還・原状回復トラブルで悩まれている方の、少しでもお役に立てればとても嬉しく思います。

また、本記事を読んでも分からない点や疑問のある点等ございましたら、ぜひお気軽にご相談ください。

借主の方の敷金返還・原状回復トラブル解決のため、精一杯お手伝いさせていただきます!!