借主に不利な特約でもすべて有効なの?イメージ

皆さんは、貸主・不動産会社から「ハウスクリーニング費用を負担してもらいます。これは特約にもとづいた内容です」や「畳の表替え費用を負担してもらいます。これは特約にもとづいた内容です」と、退去時に請求をうけたことはないでしょうか?

現在の賃貸借契約の内容は、この特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約)を、ほぼ100%契約書内に記載していることから、上記のような費用負担を請求された借主の方も多いのではないかと思います。

この特約というのは、基本的に借主にとって不利な契約であるため、よく敷金返還トラブルに発展するのが特徴的です。しかし一方、法律や裁判所の考え方を知っているだけで、特約を原因とする無用なトラブルを防ぐことが十分可能です。

本記事では、『知っていると敷金返還に有利!!特約(原状回復・クリーニング特約)について!!』を詳しく解説致します。

特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約)を原因とする無用なトラブルを避けるために必要な知識になるので、ぜひ最後まで読んでみてください。

そもそも特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約)ってなに?

特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約等)とは、原状回復の原則とは異なった契約内容によって退去時精算する契約内容のこといいます。

原状回復の原則では、

  • 経年劣化・通常損耗=貸主負担
  • 借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損=借主負担

となりますが、特約では「経年劣化・通常損耗の補修費は借主負担」とする契約内容になります。

POINT

※経年劣化・通常損耗ってなに?:詳しくはこちら👉経年劣化・通常損耗とは?

※借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損ってなに?:詳しくはこちら👉故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損とは?

本来、ルームクリーニング費用、畳の表替え費用、襖の張替え費用、クロスの貼り替え費用等は経年劣化・通常損耗に分類されるため、当該補修費用は貸主負担が原則です。

しかし、この特約というのは「本来貸主負担である負担を借主負担とする」という契約内容になっているのが一般的です。

特約(原状回復特約・ハウスクリーニング特約等)の具体例

貸主・不動産会社によって特約の内容はさまざまですが、よくみられる特約内容は下記のとおりです。

  • ルームクリーニング代を負担する
  • 畳の表替えの費用を負担する
  • クロスの張替費用を負担する
  • ペットを飼育した場合、消臭費用を負担する

特約がある場合は借主が負担しなければいけないのか?

本来貸主負担であるはずの部分も借主負担になる。いいかえれば借主にとって不利な契約である特約ですが、このような特約があった場合、やはり借主が費用を負担しなければならないのでしょうか?

賃貸借契約も民法上の契約である以上、お互いが納得した上で締結されている限り「本来の原状回復の原則とは異なった契約内容でも有効」というのは法律の建前であり、これを「契約自由の原則」といいます。

しかし、この契約自由の原則は、お互いが対等な立場であることを前提としています。少し考えていただきたいのですが、貸主と借主は対等な立場でしょうか?一般的には貸主の方が立場は上になるのではないでしょうか?

裁判所は借主を保護している

「貸主と借主の立場が対等である」という建前をつらぬいてしまうと、

  1. 退去時に清掃費用は全額借主負担
  2. 通常損耗も含めて借主負担
  3. 設備の故障等も含めて借主負担

上記のような、借主に一方的な負担を強いる契約まで有効となってしまいます。

そこで裁判所は、借主と貸主との間に情報の質や量、交渉力などの面で差があることを認めた上で、借主の不利となる特約が有効であるためには一定の要件が必要であると判示し、要件を満たしていない契約は消費者契約法により無効(簡単にいうと、その特約は最初からなかったという意味)とすることで、借主を保護しています。

POINT

※消費者契約法ってなに?:詳しくはこちら👉消費者契約法とは?

特約が有効であるための要件とは

最高裁判所(最高裁判所第二小法廷平成17年12月16日判決)は以下要件を満たした場合、特約は有効であるとの判決をくだしました。

  1. 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること

そこで「どういった特約が有効なのか?それとも無効なのか?」を判断するのが非常に重要になってきます。

特約有効性の判断基準とは

最高裁判所は、特約が有効に成立するためには前記3要件を満たす必要があるとの判断を示しました。では、3要件を満たす特約とはどういった内容になるのでしょうか?具体的にみていきましょう。

判断基準①:借主が負担すべき範囲の明確性

特約が有効たる判断基準①として“借主が負担すべき範囲の明確性”があげられます。

例えば、「経年劣化・通常損耗の補修費用は借主が負担する」というような抽象的な特約は、ほぼ効力が認められません。特約が有効となるには、

  • ハウスクリーニングは借主負担とする
  • 畳の表替えは借主負担とする
  • 襖の張替費用は借主負担とする

等、どの部分の経年劣化・通常損耗が借主負担となるのかを明確にする必要があります。

判断基準②:借主が負担すべき金額の予測性

特約が有効たる判断基準②として“借主が負担すべき金額の予測性”があげられます。

例えば前記記載の、

  • ハウスクリーニングは借主負担とする
  • 畳の表替えは借主負担とする
  • 襖の張替費用は借主負担とする

という記載の方法では、借主が退去時にいくらの負担になるのかが明確ではありません。

裁判所は「退去時に借主が負担することになる金額の予測性」を重要視していることから、特約が有効になるためには下記のような記載が必要になってきます。

  • ハウスクリーニングは借主負担とする。尚、当該費用は一律30,000円とする。
  • 畳の表替えは借主負担とする。尚、表替えは費用一畳当たり5,000円とする。
  • 襖の張替費用は借主負担とする。尚、襖の張替費用は一枚当たり3,000円とする。

判断基準③:借主が通常の原状回復義務以上の負担を負うことに関しての認識

特約が有効たる判断基準③として“借主が通常の原状回復義務以上の負担を負うことに関しての認識”があげられます。

本来の原状回復義務では、

  • 経年劣化・通常損耗=貸主に原状回復義務あり
  • 故意、過失・善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損=借主に原状回復義務あり

となります。

しかし、特約というのは「本来貸主負担である負担(経年劣化・通常損耗)を借主負担とする」という契約内容になっています。

借主としては、契約書に「ハウスクリーニングは借主負担とする。尚、当該費用は一律30,000円とする」と記載があったとして、そもそも“ハウスクリーニング費用は本来貸主負担が原則”ということを知らなければ、当該契約が借主に不利な契約であるということを認識するのは困難です。

そこで、裁判所は特約が有効になるためには「借主が通常の原状回復義務以上の負うことに関して認識させなさい」としています。では“借主が通常の原状回復義務以上の負担を負うことに関しての認識”とは、どういった認識をいうのでしょうか?

国土交通省のガイドラインでは“借主が通常の原状回復義務以上の負担を負うことに関しての認識”にたいして、下記のような説明をすべきとしています。

POINT

※国土交通省のガイドラインってなに?:詳しくはこちら👉国土交通省のガイドラインとは?

まず、この書式では原状回復の原則である、経年劣化・通常損耗の補修=貸主負担。故意、過失、善管注意義務違反及びその他通常の使用方法を超える損耗・汚損=借主負担であることが説明されています。

その上で、経年劣化・通常損耗の具体例、故意、過失、善管注意義務違反及びその他通常の使用方法を超える損耗・汚損の具体例が記載されています。

その次の書式では、借主が負担すべき範囲や、経過年数の考慮等の説明がされています。

そして最後に“例外としての特約”として、借主が契約上負担すべきことになる、経年劣化・通常損耗の負担範囲や負担金額等を説明する事になります。

ここまで詳しく原状回復の原則と例外を説明することによって、「借主が通常の原状回復義務以上の負うことに関して認識している」と判断されると考えられます。

判断基準④:借主が負担する原状回復費用が暴利的でないこと

ここまで特約有効性の判断基準を①~③までみてきました。

特約が有効であるか否かは、この3つの判断基準を考慮すればおおむね判断できますが、中にはそもそものリフォーム費用が相場とかけ離れているような暴利的な場合があります。

そこで、裁判所は特約が有効たる要件として、“借主が負担する原状回復費用が暴利的でないこと”も特約の有効性の一つとしています。

下記、原状回復費用のある程度の相場になります。参考にしてください。

クリーニング費用

  • ㎡当たり:800円~1,500円程度

畳張替費用

  • 張替の場合:一畳当たり5,000円~7,000円程度
  • 表替えの場合:一畳当たり3,500円~5,000円程度

襖張替費用

  • 一枚当たり:3,000円~4,500円程度

クロス貼替費用

  • ㎡当たり:800円~1,200円程度(経過年数要考慮)

クッションフロア(CF)貼替費等

  • ㎡当たり:2,500円~3,500円程度(経過年数要考慮)

カーペット貼替費用

  • 6帖当たり:40,000円~60,000円(経過年数要考慮)

フローリング貼替費用

  • 6帖当たり:80,000円~120,000円(経過年数要考慮)

まとめ

いかがだったでしょうか?法律や裁判所の考えを知っていれば、ハウスクリーニング費用や畳の表替え費用を負担しなくてすむ可能性が高くなります。

契約書に特約が記載されているからといって諦めるのではなく、一から特約有効性の判断基準を検討してみましょう。敷金が返ってくる可能性がきっと高くなるはずです!!